平和は状態、戦争は経過。

踏切で止まる時間が愛おしくなった。 状態を維持するのは私にとって困難で、汚い自分が地面を這って平和を乗り逃がさまいと必死になっている事実が許せない。戦争を始めると、誰かの心が傷ついてしまう。どんなときも、産まなければよかったという言葉が私の…

前略。

思い出は心の中に。好きな人とご飯を一緒に食べる時間。お風呂上がりにアイスを食べる時間。初詣に行っておみくじを引く瞬間。家族みたいなことが出来る時間がたまらなく楽しかった。幸せだった。今まで手に入らなかった私の隙間が埋まる感覚は、きっと他の…

復讐

拙くなってゆく言葉を一生懸命絞り出しても、もう出てこない。出てこないことすらどうでも良くなった。一般社会にのまれてゆく感覚に慣れてしまった。 私は「二十歳の原点」を読まずに21歳になった。就活のことで頭がいっぱい。恋人のことで心がいっぱい。他…

黒い高揚

高揚した男の股座で女がうずくまっている。女の表情は隠れて見えないが、泣いているのが私には分かった。涙は流れていないものの、紅潮した女の頬が、強い怒りと悲しみを帯びて静かに血を充満させている。女の上で動くリズムが早くなると、互いの表情が苦し…

port.11:43

畳を嗅いで気を紛らわそうとした。だけど、喉の奥からこっそりと流れる赤い匂いでどうしてもかき消されてしまう。おまじないは要らなくなった。練習しておいたから鉄の味にはもう慣れてしまった。 今日は満月だ。角が一本生えている。それをどうしても抜きた…

怒り

強い怒りが込み上げてくる。 どうしようもない憎しみと引き換えに、私は透明の優しさを覚えた。排水溝の底から、大事なものが流れてゆく音がする。誰も傷つけないようにと愛が蝕まれてゆく。誰も悪くない。強い怒りが込み上げてくる。 どうしようもない悲し…

アイデンティティ

難病だった。今まで違和感というか、そもそも生まれつきがあったので外見に関して他の人と差異がある自覚はあったが、自分が病気であることは知らなかった。 自分らしく生きるのはとても難しい。一体何をもって個性と呼ぶのか。20年間生きた中で、生活に困る…

回転

二枚の花びらが摘まれていた。 誰に摘まれたのかもう分からなくなってしまったが、 次の芽を咲かすために一生懸命大事にしていた最初で最後の二枚だった。本当は綺麗な白だった。しかし途中で真っ赤に染まってしまったものだから、あまりにも可哀想になって…

渦中

2022年7月8日。現代の若者の指が盛んに動きだす。 SNSや新聞、テレビなどの多くの媒体が情報を更新する。かっこいいお洋服や可愛いアクセサリーをアップする。自分の気持ちを綴った文章をアップする。 人間は誰も救うことができない。 あなたも私を救えなか…

忘れられた服

あの頃、私たちは周りの目なんか気にせずに、自分達が好きなお洋服を自由に身に纏っていた。派手なドレス、穴の開いたジーパン、指にはたくさんのシルバー925が獲物を捉えるようにうずくまっている。目を光らせている若者の利き手にはもう一人の自分がいた。…

最終日に描く輪郭線

車窓から海が見える。 青色の表面が太陽に反射し、キラキラと光っていている。 ずっと海の波打つ様子を見ていると、まだ少しだけ温もりのある、乱れたお布団に見えて飛び込んでしまいたくなった。 人生の始まりは、夏休みの最終日に溜まった課題のように真っ…

やさしさ

駅前にて。人混みの中に私が座っている。男の人が「お姉さん」と私に向かって話しかける。それを無視する私。人の視線が、冷たい空気よりも鋭く飛び交う。 みんなが黒く見える。私も黒く見える。見えないところで人が傷ついている。 知らないところで人が死…

死の恐怖

太平洋戦争末期、多くの命が一瞬にして消えた。特攻隊と呼ばれる決死の任務を背負わされた彼らは最後の瞬間に何を思ったのだろうか。 私は死が怖い。死ぬこと自体が怖いのではなく、その先に何があるのか分からないことが怖いのだ。だから早く分かりたいと思…

マリア

誰かの過ちが救われる世界になってほしい。 目をつぶるわけでも白に塗り替えるわけでもなく、一緒に残酷に刻み込んで包み込んであげたい。誰しも受け入れることは難しくてすごくすごく苦しいけれど全てを受け入れることは素敵な事だと思う。

2002

午前5時58分。彼らは私の目の前で生きていた。同窓会のように、私たちはかつての高校時代の過ちを語り合った。皆が狭い6畳の一室で、くだらない会話に命を燃やし、5つの鼓動に拍車がかかる。 誰も不運な形で死ぬことはない。誰も悲しい思いをする必要は無い…

warmth

一枚のキャンパスに「私」がいた。彼女は、微かに微笑んで僕を数分間見つめた。彼女の瞳は茶色で、その小さな玉は 光の反射で魂が宿っているのが分かった。僕は左手で、髪の毛、鼻、唇と彼女の身体を辿った。そして彼女の乳房に触れてみた。しかし、鱗粉のよ…

映画のような

唾液腺から甘い体液が流れ出た。体調の悪い時は、吐き気が津波のように襲ってくる。特に人混みの中だと汗が止まらなくなる。凄まじい不快感で、これは良くない事態である。今にも目の前の電車に飛び込んでこの肉をミンチ状にしてやりたくなる。精神ぶっ壊れ…

Desert

あなたと、あなたの関係はなんですか。 あなたと、あなたの娘の関係はわかります。 あなたと、あなたの家族の関係もわかります。 あなたと、あなたの関係はなんですか。 あなたが死んだら、あなたと、あなたの関係は消えますか。 あなたは、あなたと関係でき…

肌を刺す寒さのせいで私はまた死にたくなった。家までの帰り道、小学生の女の子二人がランドセルを背負って走っている。無邪気な笑い声が私を刺す。小雨が降っている。冷たい水が私を刺す。改装工事で男の人がリズム良くビスを打っている。鋭利なビスが私を…

さいきん

私は生きていて何を思うか。 貴方は生きていて何を思うか。反対側のホームの下に茂る雑草の中から、私はお花を必死に探した。だけど見つけることは出来なかった。夕方の太陽はどの時間よりも眩しい。直視できない希望を遮るように電車が通過する。私の瞳孔が…

せかい

昨日、空に星が輝いていた。今日の朝、空に月が浮かんでいた。お昼時、久しぶりに万物流転を見た。コインランドリーには光が差していて、年季の入った木目を、ローファーでなぞりながら歩くと、コツコツと音がした。その音には楽しい匂いがした。ごみ箱には…

HOME

私がこの世界に居ても良いという理由がほしい。魂と肉が存在する「ここ」は子宮のように心地よく、温度が一度たりとも変わることのない温もりを感じていたい。私が求めるのは、ただそれだけなのだ。私の性欲というものは、常に混沌としている。これはおかし…

ピンク色の風船

緊急事態宣言が解除されたのと同時に、この街も少しずつ色を放つ匂いがしてきた。その時、これからの時代を突き進むであろう愛を知らない若者たちの手から、ピンク色の風船が飛んでいった。それは今にも破れてしまいそうな皮膚を帯びながらゆっくりと、寒い…

i

昨日夢を見た。彼女がそこにいた。目が覚めた。そこには白い天井があった。それだけだった。 考えにふける夜はいつにも増して星たちが眩しくなる。愛。それは私にとってどのような存在なのか分からなくなった。紛れもなく美しく温かいものであるのは知ってい…

踊り場

最後は子宮だった。悲しくて涙が出た。こんなに悲しいのに私は踊っていた。こんなに胸が張り裂けそうなほど苦しいのに、ゆっくりと本能が私を刺し殺していった。最後まで踊り場から逃れることは出来なかった。残酷な瞬間はとても美しいことを私だけが知って…

即席の愛

醜さを美しいと思える瞬間を優しく包み込むことができたら、ひとは一生永遠になれるのに。美しい瞬間だけで形成される子宮に還ると、永遠がひとを鮮やかに殺してくれる。永遠の愛は、間断なく臍の緒を伝って宇宙から降り注がれた後、やがて灰になる。その灰…

時代と私

時代はうつり変わってゆく。 2021年3月11日。震災から11年経った。少しずつ街が変化して、今まで生活していた場所から人々が離れていく。私もこの11年で更に多くの経験をした。時代と共に変化していった。心と体が成長したのを実感する。しかし自分という存…

告白

性欲というものは穢らわしい。しかし私にもその穢いものを持っていたのだ。認めたくなかった。おじさんと同じ欲があるなんて許せない。ましてや少女だった私に突きつけられたむき出しの欲はずっと脳裏にこびりついて一生あの忌まわしい記憶が離れない。たま…

新しい街

幸せは残酷だ。 過去の悲しみも喜びも忘れてしまう。新しいは残酷だ。 過去の古いものが捨てられてゆく。 私の新しい街は誰かの古い街。どんどん移り変わって残酷が増えていく。だけどその分新しい幸せも増えていく。そうやって私たちは生きていく。わたしは…

私の生きる意味

生きる意味とは何だろうか。 私は私らしさが分からない。どの色にも染まることができるが、完全に一色に染まることは出来ない。アイデンティティの確立が曖昧であるからその都度、みんなの「らしさ」に溶け込んで生きている。人や環境によって色んな自分を表…