2022-01-01から1年間の記事一覧

アイデンティティ

難病だった。今まで違和感というか、そもそも生まれつきがあったので外見に関して他の人と差異がある自覚はあったが、自分が病気であることは知らなかった。 自分らしく生きるのはとても難しい。一体何をもって個性と呼ぶのか。20年間生きた中で、生活に困る…

回転

二枚の花びらが摘まれていた。 誰に摘まれたのかもう分からなくなってしまったが、 次の芽を咲かすために一生懸命大事にしていた最初で最後の二枚だった。本当は綺麗な白だった。しかし途中で真っ赤に染まってしまったものだから、あまりにも可哀想になって…

渦中

2022年7月8日。現代の若者の指が盛んに動きだす。 SNSや新聞、テレビなどの多くの媒体が情報を更新する。かっこいいお洋服や可愛いアクセサリーをアップする。自分の気持ちを綴った文章をアップする。 人間は誰も救うことができない。 あなたも私を救えなか…

忘れられた服

あの頃、私たちは周りの目なんか気にせずに、自分達が好きなお洋服を自由に身に纏っていた。派手なドレス、穴の開いたジーパン、指にはたくさんのシルバー925が獲物を捉えるようにうずくまっている。目を光らせている若者の利き手にはもう一人の自分がいた。…

最終日に描く輪郭線

車窓から海が見える。 青色の表面が太陽に反射し、キラキラと光っていている。 ずっと海の波打つ様子を見ていると、まだ少しだけ温もりのある、乱れたお布団に見えて飛び込んでしまいたくなった。 人生の始まりは、夏休みの最終日に溜まった課題のように真っ…

やさしさ

駅前にて。人混みの中に私が座っている。男の人が「お姉さん」と私に向かって話しかける。それを無視する私。人の視線が、冷たい空気よりも鋭く飛び交う。 みんなが黒く見える。私も黒く見える。見えないところで人が傷ついている。 知らないところで人が死…

死の恐怖

太平洋戦争末期、多くの命が一瞬にして消えた。特攻隊と呼ばれる決死の任務を背負わされた彼らは最後の瞬間に何を思ったのだろうか。 私は死が怖い。死ぬこと自体が怖いのではなく、その先に何があるのか分からないことが怖いのだ。だから早く分かりたいと思…

マリア

誰かの過ちが救われる世界になってほしい。 目をつぶるわけでも白に塗り替えるわけでもなく、一緒に残酷に刻み込んで包み込んであげたい。誰しも受け入れることは難しくてすごくすごく苦しいけれど全てを受け入れることは素敵な事だと思う。

2002

午前5時58分。彼らは私の目の前で生きていた。同窓会のように、私たちはかつての高校時代の過ちを語り合った。皆が狭い6畳の一室で、くだらない会話に命を燃やし、5つの鼓動に拍車がかかる。 誰も不運な形で死ぬことはない。誰も悲しい思いをする必要は無い…

warmth

一枚のキャンパスに「私」がいた。彼女は、微かに微笑んで僕を数分間見つめた。彼女の瞳は茶色で、その小さな玉は 光の反射で魂が宿っているのが分かった。僕は左手で、髪の毛、鼻、唇と彼女の身体を辿った。そして彼女の乳房に触れてみた。しかし、鱗粉のよ…

映画のような

唾液腺から甘い体液が流れ出た。体調の悪い時は、吐き気が津波のように襲ってくる。特に人混みの中だと汗が止まらなくなる。凄まじい不快感で、これは良くない事態である。今にも目の前の電車に飛び込んでこの肉をミンチ状にしてやりたくなる。精神ぶっ壊れ…

Desert

あなたと、あなたの関係はなんですか。 あなたと、あなたの娘の関係はわかります。 あなたと、あなたの家族の関係もわかります。 あなたと、あなたの関係はなんですか。 あなたが死んだら、あなたと、あなたの関係は消えますか。 あなたは、あなたと関係でき…

肌を刺す寒さのせいで私はまた死にたくなった。家までの帰り道、小学生の女の子二人がランドセルを背負って走っている。無邪気な笑い声が私を刺す。小雨が降っている。冷たい水が私を刺す。改装工事で男の人がリズム良くビスを打っている。鋭利なビスが私を…

さいきん

私は生きていて何を思うか。 貴方は生きていて何を思うか。反対側のホームの下に茂る雑草の中から、私はお花を必死に探した。だけど見つけることは出来なかった。夕方の太陽はどの時間よりも眩しい。直視できない希望を遮るように電車が通過する。私の瞳孔が…