忘れられた服

あの頃、私たちは周りの目なんか気にせずに、自分達が好きなお洋服を自由に身に纏っていた。派手なドレス、穴の開いたジーパン、指にはたくさんのシルバー925が獲物を捉えるようにうずくまっている。目を光らせている若者の利き手にはもう一人の自分がいた。落としたら消えてしまうであろうドッペルゲンガーに魅せられた男女は、それぞれリングを外してベッドの傍のリングスタンドに立てる。そうして彼らは月を見なかったことにして朝を迎える。その繰り返しだった。それがずっと続くと思っていた。

最近、毎晩月を眺める。30歳になる月の朔日に、久しぶりにクローゼットの中から、昔よく着ていたワンピースを出してみた。何も怖くなかった当時を思い出すと、いつもクスッとなる。
人には人生の選択が、大きく分かれるタイミングがある。あの子は今一体どうしているのだろう。

ワンピースのポケットにはブロンドの髪の毛が一本入っていた。

私は元気です。
わたしは元気です。
ワタシは元気です。