やさしさ

駅前にて。人混みの中に私が座っている。男の人が「お姉さん」と私に向かって話しかける。それを無視する私。

人の視線が、冷たい空気よりも鋭く飛び交う。
みんなが黒く見える。私も黒く見える。

見えないところで人が傷ついている。
知らないところで人が死んでいる。
醜い言葉がどこかで囁かれている。
私は少し悲しくなった。

小さな視界で光を覗いてみると、眩しかった。
一点の情報だけで私の心が完結する。

大きな視界で星を眺めてみると、眩しかった。
膨大な情報だけで私の心が完結する。
星を見つめながら私はドカーンと叫んだ。銃撃音を叫んだ。血が出る音を叫んだ。それでも星は輝いていた。悲しかったのに涙は出なかった。

渋谷にて。人混みの中に私が立っている。男の人が「ホテルに行かない?」と私に話しかける。それに途中までついて行ってみる私。
本当に連れていかれそうになり、腕から逃げると、別れ際に「頑張ってね」と言われた。

人の言葉が桜の花びらよりも優しく散る。
みんなが透明に見える。私も透明に見える。

明日は宇宙を覗いてみよう。

そうしているうちに人が消えていく。あなたも私もいなくなる。彼らの人生が雑踏に溶ける。喜びや悲しさを語る間‪もなく、それぞれの自己に吸収されていく。

やっぱり私もみんなも黒かった。