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畳を嗅いで気を紛らわそうとした。だけど、喉の奥からこっそりと流れる赤い匂いでどうしてもかき消されてしまう。おまじないは要らなくなった。練習しておいたから鉄の味にはもう慣れてしまった。
今日は満月だ。

角が一本生えている。それをどうしても抜きたくて、まっさらにしてやりたくなった。全て、この世の全てが触れることの無い文字になればいいのだ。何回でも糸は紡ぐことが出来る。ほつれたら縫い直せばよい。
空洞を強く締めるように今日も糸を通す。

痛い。すごく痛い。あまりの痛さに泣きそうになる。だけど、この二重生活を終わらせる為に、必死に生にしがみつく。失うものが無くなるまで言葉を限界まで引き出してゆく。たとえ血が流れたとしても私は言葉で遊びたい。

港に着くまで時計に電池を入れ直す。

まだ旋回の途中。