ピンク色の風船

緊急事態宣言が解除されたのと同時に、この街も少しずつ色を放つ匂いがしてきた。その時、これからの時代を突き進むであろう愛を知らない若者たちの手から、ピンク色の風船が飛んでいった。それは今にも破れてしまいそうな皮膚を帯びながらゆっくりと、寒い夜空に溶け込む雲になろうとしていた。私はそれを目で追いかけた。それはきっとどこまでも、静かな世界へと旅をするのだろう。風船の中の空気は、かつての柔らかい記憶が充満していることを、私は知っている。暖かい夢を忘れないようにと、薄い肉の下に透けた血液が間断なく通る頬をかすかに赤らめているように見えた。
真っ暗で怖い景色のはずなのにその風船だけが眩しかった。そう、私は鳥を見て絶望し、それでも生きねばと感じた。ピンクの風船。彼女は最期までどこまでも優しいマリアのようであった。