幸福

耳が聞こえる。目が見える。味わえる。触れられる。
私は幸せだ。こんなにも感じることが出来る私は本当に幸せ者である。それなのに何故こんなにも強欲になってしまうのだろう。自制が分からないから、相手への配慮が存在しなければ何処までも後退してしまう。倫理的に、そして社会的に自分の立場が悪くなると分かっていても、自己犠牲が思考の終着点になると何も怖くない。失うものはもう無いからである。
自分を守ってくれる人の気持ちと自分をもっと抉りたい気持ちがせめぎ合って葛藤するようになった。「身体は大事にしてね」という言葉がずっと私を呪っている。自分の言った、「もっと、もっと」という言葉がずっと私を縛っている。
ふとした瞬間にもっと汚さねばという衝動に襲われる。しかし、私は現実から目を背けている。現実の幸せから逃げている。現実を認めるのが怖いのだ。それが幸せであっても否であっても現実が恐ろしくて堪らない。他世界に存在する自分がどう見られているか分からない恐怖に駆られている。みんなの中にひとりひとり違う私がいる。美しくない、薄っぺらい、優しい。色んな私の存在が認識できなくて怖い。どう足掻いても彼ら彼女の内在的意識を覗くことが出来ないから不安なのだ。